久しぶりにこのカテゴリで書きますね。
というかブログを書くのが久しぶりですね。
村崎です。

昨年の10月頃、高校の文学部の後輩ちゃんから、「寄稿しませんか？」とお誘いをいただきました。
ひとつ下の世代の４人組が、みんなで原稿を持ち寄って、同窓誌というのを作ったんだそうです。
それの第二弾ということで、村崎含め、ほかの世代への原稿の募集をかけたのでした。
俺はアイディアだけはいっぱいあったし、読ませてもらった第一弾がすごく面白くて楽しそうだったので、二つ返事でＯＫしました。

自由部門：小説『ダンジュ -D'ange-』
　　　　　ショートショート『スケベニンゲン』『神さまの時計』『マルルクのポッケ』（病院直行名義）
企画部門：リレー小説『やがて歴史に還るもの』（先鋒）
短歌部門：短歌×15首

に参加させていただきました。ゲストなのに出しゃばりすぎでは？（実際ダンジュが一番ページ数食ってる）（そして俺以外の同期や先輩は一本ずつしか出してない）

で、上記作品のネタバレ・裏話をTwitterのほうに載せたのですが、「ダンジュの正体」だけは本編のド真ん中の核なので、すなわちそれが分かるとあんまりつまんないので、それだけこのブログの追記にこっそり記しておきます。

ずっと、書きたいネタやらシーンやらオチやらを本当にいっぱいためこんでいて、かと言って見せる相手もいないからと書くこともしてこなかったので、形にできる機会と勢いをくれた後輩ちゃんたちには本当に感謝しています。校正も編集も製本の発注も金銭的負担も色んな気遣いもありがとう。コロナ終わったら奢るからね……！！
読んでくれた皆さんも、ありがとうございます。小説の登場人物たちは、俺が書くことをしなければ、そして誰かに読んでもらえなければ、俺の中にしか存在しない、存在しない存在になってしまいます。俺がいなくなっても、彼らが誰かの中で生きつづければ、俺が生きていたことの証明になるから、俺はプロではないけれど、小説を書く人間というのは、幸せな人間だと思うのです。

ダンジュは、人魚です。

ダンジュはメジナという魚を始祖にもつ人魚の青年です。
メジナは、黒い体に薄い唇、そして青い瞳を持つ海水魚です。

ダンジュは人間の男に恋をし、声と引き換えに脚を得て、人間の世界へやってきました。
ところが彼の恋は実らず、相手を刺してその血を浴びることも叶わず、海から遠く離れたその場でひとり死のうとしていました。
そして、歩道橋から飛び降りようとしたところで、ジョーに拉致されるわけです。

俺もWikipedia見るまで知らなかったんですが、人魚姫の原作には「人魚姫の姉たちが失恋した妹のために髪を捧げ、海の魔女から貰ったナイフで相手の返り血を浴びれば人魚に戻れる」というシーンがあるらしいですね。子どもの頃に読んだ絵本では省略されてたのかな？ 人魚姫は失恋してすぐ身投げしてた気がする。


ダンジュは一度は命を助けられたことで、救われたことに意味を探そうとしますが、ヒロの浅はかさに諦めのようなものを感じて、「やっぱり生きることはくだらない」と思うのです。
もしも想い人が自分を愛してくれたとして、ヒロのように愚かしい感情を向けられたら？ そして恋に狂っている自分はこの形振りかまわない人間と同じで醜いのでは？ そんなことをダンジュは考えたのではないでしょうか。

ダンジュは、海で生まれた自分は海でしか死ねないのだと思って、刺殺と自殺に失敗した歩道橋をさかのぼり、自分がやってきた海へ向かいます。

ダンジュがヒロにキスをしたのは、もちろん眠らせるためですが、同情と、そして軽蔑の意味があったんじゃないかな。叶わない恋に身をやつしているもの同士としての感情と、自分のキスひとつで舞い上がっちゃう「下」の相手への気持ち。
ダンジュは、要するに、ヒロとの心中を拒んだのです。
「ヒロを死なせたくない」ではなく、「ヒロなんかと一緒には死にたくない」から。そして、「おまえはぼくと同じところにはいけない」というのは、違う種族が同じように死ぬことはできない、という意味もありますが、たぶん、甘ちゃんのヒロに本当は心中する覚悟なんかないって見抜いてたんじゃないかな。

そしてダンジュは、最初からそのはずであったように、ひとりで命を絶ってしまいます。
ヒロに強烈な喪失感と凄絶な苦しみを遺して……。
自分の死後にヒロが苦しむことを厭わないくらいには、ダンジュはヒロを欠片も愛していなかったんだろうね。


砂浜で眠るヒロを迎えに来るのは、やっぱりジョーなんだろうな。